不動産

オフィス用(営業用、ビジネス用)賃貸借契約の原状回復義務その1

オフィス用(営業用、ビジネス用)賃貸借契約の原状回復義務の範囲について、改正債権法が施行された令和2年4月1日以降に締結された契約と、令和2年4月1日より前に締結された契約とにわけて、解説します。

こちらは、令和2年4月1日(改正債権法が施行された日)より前に締結された賃貸借契約の解説です。

新しく誕生した民法621条は、施行日の令和2年4月1日より前に締結した契約には及びません。令和2年4月1日より前に締結はしたものの、令和2年4月1日より後に更新した賃貸借契約はどうか、というと、一般的には、新しく誕生した民法621条は、適用されないという考えが一般的です。

この場合のオフィス用(営業用、ビジネス用)の賃貸借契約の賃借人の原状回復義務はどうなるでしょうか?

債権法改正後の民法621条が制定される前には、平成17年12月16日最高裁の判決というものがありました。同判決の内容は、新しく制定された民法621条とほぼ同じ内容で、賃貸借契約に賃借人がどんな原状回復義務を負うか書いていない場合は、賃借人は「通常の使用による損耗、経年劣化」の原状回復義務(床タイルや壁クロス貼り換え、天井の塗装、クリーニング等の義務)は負わないとされていました。新しく誕生した民法621条は、この最高裁の判決を民法で条文化したものであると説明されることが多いです。

しかし、この平成17年12月16日最高裁の判決は、オフィス用(営業用、ビジネス用)の賃貸借契約ではなく、居住用建物の賃貸借契約の事例の判決です。

したがって、オフィス用(営業用、ビジネス用)の賃貸借にも平成17年12月16日最高裁の判決が及ぶかは問題となります。

この最高裁判決は「居住用建物の賃貸借だから、こうである」という書き方ではなく「およそ賃貸借契約については、こうである」という書き方なので、素直に読めば、オフィス用(営業用、ビジネス用)の賃貸借についても、この最高裁判決が適用され、賃貸借契約書に賃借人がどのような原状回復義務を負うか、具体的に定めていない場合は「通常の使用による損耗、経年劣化」の原状回復義務(床タイルや壁クロス貼り換え、天井の塗装、クリーニング等の義務)を賃借人に負わせることはできない、となりそうです。

実際にも、この平成17年12月16日最高裁の判決の評釈を見ると、この判例は、居住用賃貸借だけでなく、オフィス用(営業用、ビジネス用)賃貸借をはじめとして、賃貸借一般に及ぶというものが一般的です(判例タイムズ1245号平成18年度主要判例解説、判例タイムズ1217号民事実務研究)。

また、この最高裁判決が出た後、新しく民法621条が施行される前に出された。オフィス用(営業用、ビジネス用)賃貸借の事案に関して、大阪高裁H18.5.23があります。その判決は、最高裁判決の内容は、オフィス用(営業用、ビジネス用)賃貸借にも適用され、賃貸借契約書に賃借人が負う原状回復義務を具体的に定めていないので、賃借人は、「通常の使用による損耗、経年劣化」の原状回復義務(床タイルや壁クロス貼り換え、天井の塗装、クリーニング等の義務)は負わない、というものです。

令和2年4月1日(改正債権法が施行された日)以降に締結された賃貸借契約はこちら